お知らせ
9月24日(火)、25日(水)は全館休館です。
9月26日(木)より通常開館いたします。
コレクション展「鴎外の『意地』のはなし―歴史小説『阿部一族』を中心に」は10月6日までの開催です。お見逃しなく!
本号の巻頭コラムでは、東海大学教授の大木志門氏に文京区と金沢三文豪についてご執筆いただきました。
館報は館内で配布中のほか、こちらでもご覧いただけます。
葉書「石黒忠悳筆 鴎外宛」
大正元年10月2日(下左)、大正2年6月22日(下右)
差出人の石黒忠悳(ただのり)は近代軍医制度の成立に関わった陸軍軍医で、鴎外の上司にあたる人物です(この時は既に退官)。
1枚目は鴎外にとって初めての歴史小説『興津弥五右衛門の遺書』発表時に送られた葉書で、『興津弥五右衛門の遺書』を発表した雑誌の名を尋ねる内容です。大正元年10月、現在も刊行が続く総合雑誌「中央公論」に掲載されました。
2枚目は初めての歴史小説集『意地』発行時に送られた葉書です。出版社(籾山書店)から『意地』(大正2年6月)を送られた石黒が、既に『阿部一族』『興津弥五右衛門の遺書』を読み終え、夕刻から『佐橋甚五郎』を読むのを楽しみにしていると綴っています。
石黒は、鴎外の歴史小説執筆に深く関わっている乃木希典と親しい間柄でした。乃木は殉死に際して、複数の遺書をのこしていますが、その中の一通は石黒に宛てたものでした。陸軍草創期から共に歩んできた乃木の死を、石黒も重く受け止めたことでしょう
石黒は乃木と興津弥五右衛門を重ね合わせ、評論家・横山健堂に語っています(横山健堂『大将乃木』)。そして、鴎外の『興津弥五右衛門の遺書』について「鴎外の文才に驚けり」と感想を述べました。
8月26日(月)、27日(火)は全館休館です。
8月28日(水)より通常開館いたします。コレクション展「鴎外の『意地』のはなし―歴史小説『阿部一族』を中心に」を引き続きお楽しみください。
開催中の展覧会から、展示資料を紹介します。
鴎外著『意地』籾山書店 大正2年
鴎外著、斎藤茂吉解説『阿部一族 他二篇』岩波文庫 昭和13年
鴎外初めての歴史小説集です。鴎外とも親交があった陸軍大将・乃木希典の死をきっかけに執筆した『興津弥五右衛門の遺書』(大正元年10月発表)、そして『阿部一族』(同2年1月発表)、『佐橋甚五郎』(同年4月発表)を収録しています。
『鴎外日記』によると、大正2年4月から『意地』発行に向けて具体的に動き出したようです。当初、『軼事篇』(いつじ/世に知られていない事柄の意)という書名を予定していましたが、編集者に請われて『意地』と改めています(『鴎外日記』大正2年4月9日)。
定価は50銭で、当時はコーヒー1杯が5銭であったことを考えると、決して安い金額ではないようです。『意地』は初版1,000部を発行したものの、再版はなかったとみられます。
その25年後、岩波書店から『阿部一族 他二篇』の名で、『意地』と同じ作品を収録した文庫が発行されました。解説は鴎外と親交のあった歌人・斎藤茂吉です。
そして『意地』発行から111年後の現在も、岩波文庫『阿部一族 他二篇』は茂吉の解説をそのままに発行を続けており、当館ミュージアムショップでも取り扱っています。本展をきっかけに「鴎外の『意地』のはなし」に関心を持たれたら、是非お手に取ってみてください。